伝統的な日本家屋のすばらしさをリフォームに取り入れたい
まる秀工務店のコンセプトは、日本の建築現場で古来から続く伝統の復活
「阪神淡路大震災が拍車をかけ、ここ10年、20年でしょうか、“家づくり”のあり方がひっくり返ったように思います。とくに日本古来から続く伝統的な家づくりや日本家屋の良さが否定されているのが残念です」と、語るのは熟練大工の井上秀矢さん。その矛盾を解決するため、平成20年、明石駅から車で15分ほどの神戸市西区に「まる秀工務店」を開いて独立し、あらゆる家のリフォームを手掛けています。
まる秀工務店のコンセプトは、“昔の良さを取り戻すこと”。木や和紙など国産の自然材料の使用、日本家屋が持つ美しさや機能性の取り込み、大工の棟梁を中心とするプロ意識の高い職人集団による施工、施主と作り手(大工の棟梁)の双方的な関係など……そういった、日本の建築現場で昔から続いてきたさまざまな伝統への回帰です。
「知名度のない個人経営の小さな工務店なので、大手メーカーに比べると最初の信用は低いと思います。けれど、お客様の対応から、リフォームの設計、現場の施工まですべてを一貫して『まる秀工務店』で行います。いいものを作りたいという職人としての自負がありますから、安全で優れた施工は当たり前。手掛けた施工は隅から隅まで分かっているので、アフタメンテナンスも早急に対応できます。そして、昔の日本では当然だったのですが、」と井上さんが微笑みます。「お客様と一緒に家を作っていきたいんですよね」
日本家屋は、美的感覚と機能性を兼ね備えた、職人の心と技の集大成
井上さんは、淡路でたまたま見かけた日本家屋のすばらしさに感動し、建築の世界へ足を踏み入れました。「知らない人の家だったんですけど(笑)、思い切って建てた人を紹介してもらったんです。寺社なども修復する腕の優れた大工が作った家で、高校卒業後にその大工の親方に弟子入りしました」
以来、10年間の修業時代を含めて20年以上、大工として現場の最前線で家づくりに関わっています。「家づくりは、木を切って皮を剥くことから始めるんですよ。ノミやカンナなど大工の手道具は世界一多いかもしれません。用途に応じて道具を自分たちで作りますからね」。日本家屋には職人のこだわりが凝縮しています。
また、国産のヒノキやスギは、家づくりに適しているだけでなく、美しい木目を持った世界に誇れる建材なのだとか。日本家屋でお馴染みの、土壁や畳、柱、障子なども、機能性と美しさを兼ね備えています。井上さんはしみじみと語ります。「そんな伝統的な日本家屋の良さを失いたくはないものです」
とくに最近は、耐震やデザインなど一部だけに特化したリフォームや新築を賞賛する、かたよった考え方が増えているのが心配なのだそうです。「たとえば、耐震性を増強するために屋根を軽くした家は、大きな台風が来れば心配ですよね」。その点、日本家屋は、日本の風土に適し、総合的に優れた建築物なのです。(写真は井上さんの28歳時の施工例)
建築は本来自由。リフォームの相談は慌てずじっくり話し合いたい
「これも最近の傾向ですが、リフォームを含めて家は買うものという固定観念が定着しているように思います。けれど、昔は大工の棟梁が各職人と話し合い、さらに大工の棟梁が窓口となって施主様と話し合いながら家を作っていました。建築は本来自由なものなのです」
計画はやりすぎということはないそう。「手すり一本でもリフォームしますよ」と、気さくな井上さんは、計画や相談に慌てずじっくり付き合ってくれます。むしろ、妥協はせずに希望をどんどん言ってほしいのだとか。当然、安全や予算などの面から、できないものはできないと納得のいく理由を述べてはっきり言うこともあります。けれどもそこは家づくりのプロ、代替案もいろいろと提案してくれます。
「大工は職人ですから、“ええもん”を作りたいんですよ。“ええもん”を作って、お客様によろこんでもらったらさらに嬉しい。また、せっかく自分の家なので、一緒に作業をしてもいいんですよ。昔は家主はもちろん、近所の人も家づくりを手伝っていました。蛇足ながら、それが地域の絆を育んでいたんですよね。また、国産の優れた素材を使うことで、お客様に喜んでもらい、国内の活性化にも貢献できればと思っています」
井上さんの事務所兼ご自宅は、井上さんが設計し、基礎工事から約10ヶ月かけてご自身で作ったそう。モダンで居心地の良さそうなキッチン&リビング(写真)は、日本建築をこんな風に上手に取り入れることができるのかと驚きました。同時に、「家は買うものではなく作るもの。建築は本来自由なもの」という井上さんの言葉が、胸に深く染み入るようでした。
(取材年月:2009年12月)