丸ごと一頭を知り尽くす神戸牛のプロ
口の中でとろけるホンモノの最高級神戸牛を
最優秀賞受賞牛(チャンピオン牛)などプレミアム牛を一頭買いし、提供する焼肉店として数々のマスコミにも登場している神戸市の西神飯店の松田芳明社長。今年6月には三宮に神源という姉妹店をオープンし、より多くの人々がその味を楽しめるようになりました。
神戸牛といえば、日本で唯一純国産の血統を保つ黒毛和種「但馬牛」の中でも、厳しい審査をクリアした最高品質の牛だけに許される称号で、贈答品としても人気の超高級品。そんな神戸牛を他では考えられないような価格で提供し続けるのは、その一頭買いという仕入れ方法にあります。
「日本全国広しといえども、神戸牛のプレミアム牛をまるごと一頭仕入れている焼肉店はうちだけじゃないかな」と語る松田さん。そもそも品質のよい肉を提供したい、という一念で、神戸牛を扱う老舗卸会社である帝神畜産の社長に相談したところ、直接競り落とすしかない、と言われてはじめたのだとか。
「他の高級食材もそうですが、神戸牛といっても、いいお肉はほとんど関東に流れてしまう。地元神戸でこそホンモノの最高級神戸牛を食べてもらいたい。精肉業者ばかりの中で孤軍奮闘しながらも、チャンピオン牛を必死で競り落としていました。だから初めは焼肉店というよりもお肉屋さんの間でちょっと有名になりましてね。そんなことする店は、焼肉店はもちろん、ステーキハウスでも、どこを探してもなかったですから」。
ひょんなきっかけで入った飲食業界はチャレンジの連続
プレミアム牛を一頭丸ごと競り落とす手腕といい、それをあますところなく商品化するアイデアといい、まさに牛肉を知り尽くしている松田さん。きっと、もともと精肉業界に顔が利いたのだろうと思っていたら、焼肉との出会いまでに相当の紆余曲折があったというから驚いた。
「もともと父親が建設関係の会社を経営していて、それを継ぐために専門学校に通っていました。そんなころ母が炉ばた屋をやるといいだして、人手が足りないから手伝え、と。飲食業界へはそんなきっかけで入ったんです」。
当時まだ珍しかった炉ばた屋は成功し、その後、うまいもの好きだった父親が会社の倉庫横の土地に中華料理店を開くということで、そこで中華料理を覚えたとか。
「後でわかったことですが、このときの料理長というのが関西北京料理界でも屈指の料理人でした。その人のそばで、仕事を目で盗み舌で覚えながら、普通5年かかるところを2年で宴会料理が出せるまでになったんです。父から早く覚えろ、といわれてましたからね(笑)」。
北京料理の西神飯店が地元で有名になり、今度は鮮魚好きの父親の要望で、隣に寿司店をオープン。しかしこれは1年半で閉店することに。この店舗を焼肉店に貸したことがきっかけで、ようやく焼肉との出会いがあったといいます。
「それも、この焼肉店のオーナーが続けていてくれたら、今の自分はなかった。このときの焼肉店が1年半で辞めてしまったから、その店舗を活用するために自分が神戸の焼肉店に修行に行き、そこから店を開いてからも試行錯誤の連続。でもさまざまなことにチャレンジしたからこそ、今があると思っています」
多くの人に神戸牛の素晴らしさを味わってほしい
チャンピオン牛ばかりを競り落としていたときも、トライ&エラーの繰り返しだったという松田さん。一頭買いをするようになって、品質のよい牛を手に入れたものの、焼肉店では通常使わないような部位がどんどん冷蔵庫にたまっていった、といいます。それらをなんとか商品化できるまでにしてきたとか。メニューには、ステーキハウスでしか味わえないようなサーロインや、最高級牛だからこそ提供できる希少部位のチマキ、また、ミンチ部位を利用したハンバーグやコロッケなどがずらりと並びます。
「神戸牛の色々な部位を食べ比べできるのはうちだけ。一頭丸ごと味わえるコースもあります」。
紆余曲折を経てきた仕入れは、最高品質の神戸ビーフを安定して供給できるよう、今では、但馬牛の肥育業者として数多くの神戸牛、それもチャンピオン牛を育ててきた中西牧場に専用牛舎を設け、中西牧場グループからの仕入れに一本化したという松田さん。週に1回は牛舎に顔を出し、仕入れた肉は一頭一頭全て試食してその出来を確かめ、そのつど食味について中西牧場の社長と話し合うそうです。
こだわりは牛だけでなく、お米やお水までおいしく提供できるよう、さまざまな努力をされています。
「これからの食は安全、安心が第一でしょう。うちは仕入れた肉の血統まで全てご説明できます。地元はもちろん、地方の方など、これからはもっとたくさんの方に神戸牛のすばらしさを味わってほしいですね」。
人あたりが柔らかく穏やかな語り口調ながらも、熱い情熱が内面から伝わってくる松田さん。そのこだわりをぜひお店で堪能したい。
(取材年月:2008年11月)